認知症診断に用いる心理評価

紹介

認知症の診断に用いられる心理評価は、患者の認知機能や行動、精神状態を総合的に評価するために行われます。心理評価では、患者の記憶、注意力、言語能力、視空間認知、実行機能などの様々な認知機能の側面を測定します。以下は、認知症の診断でよく用いられる心理評価の項目やテストです。

1. MMSE(Mini-Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)

MMSEは、世界的に認知症のスクリーニングに広く使用されている簡易認知機能検査で、以下のような項目で患者の認知機能を評価します。そのため学会発表においては後に紹介する長谷川式ではなくMMSEを用いることが多いです。

見当識: 今日の日付や場所(「今日は何日ですか?」、「今いる場所はどこですか?」など)。

記憶: 3つの単語を覚え、その後に思い出す。

注意と計算: 100から7を引いていく(100-7-7…)または「WORLD」という単語を逆に言う。

言語能力: 指定された物を正しく名前で答える、簡単な文章を書く、指定された文を読む。

構成能力: 図形(例えば2つの重なった五角形)を模写する。

スコア: 合計30点満点で、23点以下は認知機能障害の疑いがあるとされます。

2. HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)

日本で広く用いられている認知機能のスクリーニング検査で、以下のような項目で構成されています。

見当識: 日付、場所などの質問(「今日は何日ですか?」、「ここはどこですか?」)。

記憶: 物の名前や住所を覚え、後でそれを再生する。

計算: 簡単な計算問題(「100から7を引いてください」)。

言語: 指定された単語を思い出す。

スコア: 30点満点で、20点以下は認知症の疑いがあるとされます。

3. ADAS-Cog(Alzheimer’s Disease Assessment Scale-Cognitive Subscale)

アルツハイマー型認知症の評価に特化したテストで、認知症の進行度を測定します。以下の項目で評価されます。

記憶: 単語リストを覚えて再生する。

言語能力: 指定された物の名前を言う、文章の読解、命名など。

指示に従う能力: 指示されたタスクをどれだけ正確に行えるか。

視空間認知: 図形模写や空間把握力の評価。

実行機能: 問題解決能力や計画立案能力。

4. 時計描画テスト(Clock Drawing Test)

簡単で時間がかからない検査ですが、認知症の診断に非常に有効です。患者に時計の絵を描いてもらい、指定された時刻(例えば「10時10分」)を描くよう指示します。以下の能力を評価します。

視空間認知: 数字や時計の針を正しい位置に配置できるか。

実行機能: 時刻に対する理解や計画力、手順に従って物を配置する能力。

5. MoCA(Montreal Cognitive Assessment)

MMSEよりも認知症の早期発見に敏感なスクリーニングツールとして知られています。以下の項目を評価します。

注意と集中: 連続した数字を順に言う、特定の条件下での作業遂行。

記憶: 言われた単語のリストを後で思い出す。

言語能力: 動物の名前を答える、簡単な文章を作る。

視空間認知: 図形を模写する、特定の空間タスクを遂行する。

実行機能: 問題解決や計画の能力を評価。

6. FAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉機能評価バッテリー)

前頭葉機能に関連する認知機能を評価するテストで、以下の項目があります。

抽象的思考: 似ているものをグループ化する。

抑制能力: 特定の行動を止める能力。

概念化: 特定の概念を理解する能力。

自発性: 新しい行動や考えを始める能力。

7. 言語流暢性テスト(Verbal Fluency Test)

患者に1分間でできるだけ多くの単語を思い出すように指示します(例えば「動物の名前を言ってください」)。このテストは、患者の言語能力や実行機能、思考の柔軟性を評価します。

8. RBANS(Repeatable Battery for the Assessment of Neuropsychological Status)

神経心理学的な検査バッテリーで、以下のような広範な認知機能を評価します。

記憶: エピソード記憶やリスト記憶、視覚的な記憶。

言語: 命名や言語理解。

視空間認知: 図形の描写や空間関係の理解。

注意: 簡単な作業や計算。

実行機能: 問題解決能力や論理的思考。

まとめ

認知症の診断には、複数の心理評価を組み合わせて総合的に認知機能を測定します。MMSEやHDS-Rのようなスクリーニングテストは簡便で広く使われており、MoCAやADAS-Cog、FABといったテストは特定の認知機能や病態に応じた詳細な評価を行います。これらのテストにより、認知症の種類や進行度を評価し、適切な治療やケアに繋げます。

当院ではMMSEでスクリーニングを行い、前頭葉はFAB、言語流調整テストを補助に使用しています。

他にも検査を組み合わせるのですが、その意図と項目は次回ご紹介。

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TOMORI
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このブログでは作業療法士を目指す方、現役のセラピスト、復職を目指す方に対して学び直し、資格取得、勉強方法、スキルアップにつながる情報、今後は個別での相談受付も視野に進めていきます。

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