臨床実習指導者を25年以上やってます。色々な試行錯誤があり、時代によって求められる内容も変化しています。当院で実習をしていただく学生さんには以下の目標を立てています。
<臨床実習目標>
1.対象者のリハビリテーションを有効かつ安全に進める
1)対象者の心理的・精神的・環境状況を把握し専門的立場から治療的態度を取ることができる。
2)個別の治療プロセスを見聞し、障害において各種のリスク管理ができる。
2.作業療法の治療プロセスを体験し、その基本構造を理解する
1)作業療法評価として対象者の病状や障害に合わせた項目を立て、優先順位を設定することができる。
2)作業療法評価における検査・測定・観察を手法や方式を正確に実施・記録を行うことができる。
また、必要に応じて対象者に協力を得るため説明を行うことができる。
3.コミュニケーション・情意領域による学習者として基本的姿勢・対人的態度の励行
1)専門職として基本的態度「責任感」「誠実性」「情緒の安定性」「協調性」が身に付いている。
2)スタッフとの連携実施のためのホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)を的確な用語で時間と方法
を選択、調整し実行することができる。(例:アポイント、節度を持った態度、言葉遣い、簡潔な内容)
臨床実習施設として引き受けるメリットとデメリット
臨床実習施設が作業療法士の臨床実習生を受け入れることには、いくつかのメリットとデメリットがあります。受け入れる側として、実習生が施設に来ることでの影響を理解し、それに基づいて適切な対応を取ることが重要です。
メリット
1. スタッフの教育・指導力の向上
• 実習生を指導することで、受け入れる作業療法士や他のスタッフが自分の知識を再確認し、整理する機会となります。これにより、指導力や教育スキルが向上し、職場全体の教育文化が育まれます。
• 新たな知識や技術を教える過程で、現場のスタッフ自身も学び直しや自己成長の機会を得ることができます。
2. 職場の活性化
• 若い実習生が新しい視点やエネルギーを持ち込むことで、職場の雰囲気が活性化することがあります。実習生が最新の理論や技術を学んできていることもあり、スタッフにとって新たな視点やアプローチを知るきっかけになることもあります。
• 実習生の存在が現場の緊張感を高め、業務の質の向上につながることがあります。
3. リクルートの機会
• 実習中に優秀な学生が見つかれば、将来の採用候補として考えることができます。学生が実際に現場で働く姿を直接観察できるため、面接だけではわからない適性や実務能力を確認することが可能です。
4. 職場の社会的貢献
• 作業療法士の人材育成に貢献することで、教育機関や地域社会との連携を強化でき、施設の社会的評価が向上します。また、教育機関と強い関係を築くことで、地域のリハビリテーションの質向上にも寄与することができます。
デメリット
1. スタッフの負担増加
• 実習生の指導には時間と労力がかかります。患者の治療に加え、実習生への説明やフィードバック、評価などを行う必要があり、特に忙しい時期や人手が足りない状況では、スタッフに大きな負担となります。
• 実習生に個別指導を行うため、通常業務が遅れることや、スタッフの疲労が増えるリスクがあります。
2. 患者対応の難しさ
• 実習生はまだ経験が浅いため、患者対応が不十分な場合があります。特に難しいケースでは、患者に対して適切な対応ができない可能性があり、指導者がフォローする必要があります。
• 患者の治療が実習生の学習の一環として行われるため、患者側の理解や協力が必要です。しかし、患者によっては実習生に抵抗を示したり、治療効果を不安視することもあるため、その調整が必要となります。
3. 指導責任とリスク
• 実習生が不適切な判断や行動をした場合、指導者や施設に対して責任が生じる可能性があります。例えば、患者に対するミスが発生した場合、施設がその対応を行わなければならない場合があります。
• 実習生の指導は非常に慎重に行う必要があり、そのための監督や教育体制の強化が求められます。
4. 設備やスペースの制約
• 実習生の受け入れには、学習スペースや指導者との面談スペースが必要となります。実習生がいることで、日常業務に使う場所や設備に負荷がかかる可能性があります。
• 実習生のための教材や情報提供のためのリソースも確保する必要があり、施設全体のリソースをうまく管理する必要があります。
総合的な対応
施設が実習生を受け入れる際には、メリットとデメリットをしっかりと理解し、適切なサポート体制を整えることが大切です。以下のような工夫が役立つかもしれません。
• スタッフ間の役割分担を明確にし、指導の負担を分散させる。
• 実習生の教育計画を事前に整備し、スムーズに実習が進むようにサポート体制を整える。
• 患者とのコミュニケーションを重視し、実習生の関与に対する理解を求める。
受け入れ施設がしっかりと準備をすることで、実習生との相互成長や職場の向上を図ることが可能です。
受け入れ施設の裏話
養成施設からは施設使用料が実習施設に支払われます。価格は1日北里柴三郎さん2人から4人。
実習指導者の懐には1円も入りません。得られるのは「やりがい」のみです。そうなれば少しでもやる気のある若者と出会いたいものです。
次回からは各実習に臨むときに必要な情報を整理しましょう。