作業療法士養成課程の見学実習でのレポートは、観察した現象を正確に記録し、分析することが求められます。現象を記載する練習として準備しておくべき項目は、以下の要素を意識すると良いでしょう。
1. 観察日時・場所
- 実習日
- 観察した時間帯
- 環境
- 病棟・ホール・訓練室・屋外・中庭・階段
- ベッド上・プラットホーム・トイレ
- 車いす・洗面台前・カバンを把持
2. 対象者の基本情報
- 年齢(例:70代)、性別
- 診断名(主治医から提供された情報)
- 身体的・認知的機能の概要
- 治療歴やリハビリの進行状況
- 対象者の生活背景や趣味(例:独居であることや自動車運転を入院前にしていた情報など)
3. 観察した行動・動作 ※ここはとても大事なところなので、別項目を設けました。↓
• どのような動作を行ったか(歩行、手作業、食事動作など)
• 動作の正確さ、速度、協調性
• 具体的に記録する(例:「右手でスプーンを持ち、スムーズに口元まで運んだ」など)
4. 対象者の反応
動作に対する対象者の感情的・心理的反応
疲労感や痛みの表現
作業に対するモチベーションの変化
5. 支援の内容
作業療法士や他のスタッフがどのような支援を行ったか
支援の方法(口頭指示、身体的介助、デバイスの使用など)
支援後の対象者の変化
6. 他の要因の影響
環境要因(部屋の明るさ、温度、周囲の音、介入直前の動向など)
社会的要因(家族の同席、他の患者の存在)
対象者の体調(前日の睡眠状況、血圧や疼痛、薬の効果など)
7. 観察した結果の分析
どのような動作や反応が通常と異なって見えたのか
対象者の動きの結果が危険であったり、問題点や改善すべき点
予想外の行動やその動きが続くとどのような影響を及ぼすか結果に対する考察
8. 自分の学び
見学を通じて学んだこと、得た知識
作業療法士の介入方法や手技に対する理解
9. 今後の展望・課題
観察対象者に対する今後のリハビリ計画の展望
自分が今後取り組むべき課題や勉強点
10.記載の配慮
実習レポートで敬称を入れるかどうかは、レポートの形式や受け取る側の期待によりますが、一般的には次のポイントに注意して敬称の使用を判断します。
① 敬称の使用が適切な場合
患者に対しての敬称: 患者について記述する場合、基本的には敬称を用いません。実習レポートは客観的な記録や分析が求められるため、「〇〇さん」や「〇〇様」ではなく、単に「患者」や「対象者」として記載するのが一般的です。 例: 「患者は〜」「対象者は〜」と書くのが適切です。
指導者やスタッフに対しての敬称: 教官や臨床指導者に言及する場合、特に直接の対話や個別のエピソードを記述する際には、敬称を入れることが適切です。ただし、あまり過度に使いすぎるとレポートが読みにくくなるため、控えめにしましょう。 例: 「指導者の○○先生が、〜と説明してくださった。」
②敬称を入れない場合
客観的な記述が求められる部分: レポートの大部分では、客観的な情報を重視するため、敬称は不要です。特に患者や介入の詳細な記録では、丁寧すぎる表現よりも、事実を簡潔に記述することが重要です。 例: 「作業療法士が対象者に対し、手指のリハビリを行った。」
③指導者からの指示に従う
学校や施設ごとにレポート作成の方針が異なる場合があります。指導者から「敬称は不要」や「使うべき」といった指示があれば、それに従うのが最も重要です。
まとめると、基本的には患者や対象者に対しては敬称を入れず、指導者やスタッフに対しては必要に応じて敬称を使用するのが一般的です。レポートの趣旨や指導者の指示に従って適切に対応しましょう。
観察ポイント 奥が深い!
作業療法士の介入を見学する際には、単に動作を観察するだけでなく、治療プロセス全体やその背景にある思考を理解することが重要です。以下のポイントに注目すると、作業療法士の介入の全体像を深く理解できます。
1. 治療の目的
- 作業療法士が何を目指しているか、治療の具体的な目標は何か(例:ADLの改善、関節可動域の向上、社会復帰支援など)
- 目標に対する短期的・長期的な見通し(自宅退院、職場復帰、介護保険サービス利用の独居再開など)
2. 患者のニーズに合わせたアプローチ
・ 患者の身体的・精神的な状態に合わせた適切なアプローチを取っているか
・患者の個別性(興味・習慣・性格)に配慮した介入かどうか
・アプローチが患者の生活背景に合ったものであるか
3. 評価の方法
・患者の身体的機能や認知機能、感覚機能をどのように評価しているか
・主観的な評価(患者の発言)と客観的な評価(テストや観察)をどのように比較しているか
4. 治療手技・技術
・作業療法士が使用する具体的な技術や手技 (例:手指の動作訓練、歩行訓練、感覚統合療法、ボバースアプローチ、川平法など)
・どのような道具や器具を使用しているか(超音波治療器、スプリント、、短下肢装具など)
・手技や動作訓練の際に、適切な力加減や指導を行っているか
特に力加減は骨や関節を滑らせたり、転がしたりするためなのか、皮膚や軟部組織に伸縮性を持たせるためなのか、筋膜リリースさせるためなのか、学生が傍目から見ただけでは区別がつかないと思います。
※見学後の質問の機会があればぜひセラピストに尋ねてみるとよいでしょう。質問された側も学生が自分の動きに関心を持ってもらえたことを嬉しく思うと思います。
5. 患者とのコミュニケーション
• 言葉での指示や説明が明確で、患者が理解できているか 医学用語は言い換えたり、認知面や知的能力を確認するテストについては受け入れやすい表現に言い換えるなどの工夫が必須です。
• 口調や表情など、患者に対する配慮が見られるか 難聴や注意が向かずに聞き取り、理解することの程度や状況を判断して筆談や静かな場所での実施といった配慮がさりげなく行なっていることに気づいてください。
• 患者の発言や反応に対して、適切なフィードバックをしているか 高圧的、横柄な態度、易怒性の高い患者に対してや、依存的・拒否的な患者に対してセラピストがどのように振る舞うのか学べることが多いと思いますよ。
6. 治療の進行に対する柔軟性
• 患者の反応や体調の変化に応じて、治療内容をどのように調整しているか
• 患者の疲労や痛み、ストレスに対する対応策が取られているか
• 必要に応じて治療の方向性や手技を変更できる柔軟さがあるか
7. 患者のモチベーションの引き出し方
• 患者のやる気を引き出すために、どのような声かけや方法を使っているか
• 患者の不安や恐怖を軽減するための配慮があるか (手順や実施する目的をわかりやすい言葉に変換しているかに注目です)
• 小さな成功を強調して自信を持たせる工夫があるか (上から目線ではなく、個人を尊重しつつ、言いなりにならないという距離感を持っているか、学生という立場ではできなくてもスタンスを身につけたい部分ですね)
8. リスク管理
• 患者が転倒や怪我をしないように、周囲の環境や道具をどのように安全に配慮しているか(どの位置にセラピストがいるか、手を伸ばしてしまう可能性を予測しわざと興味が移りやすいものを配置しない配慮が大事です。ここが学生でわかっていると指導者に感心されます)
• 作業療法士が介助を行う際、どの程度の身体的サポートをしているか
• 患者の痛みや不快感が悪化しないように注意しているか
9. 多職種連携
• 他の医療スタッフ(看護師、理学療法士、医師など)と連携している場面があるか 特に同じ患者を担当するスタッフとの距離感が、学生が今後就職活動する上でも職場環境という意味で理想と現実を知る部分です。
• 他職種の情報をどう取り入れ、患者のケアに活かしているか
10. 終了後の評価と次のステップの計画
• セッションの終了後、作業療法士がどのように患者の状態を評価しているか
• 次回の治療や長期的な治療計画に向けたステップをどう考えているか
• 終了時に患者にフィードバックを与え、今後の目標や期待を共有しているか
これらの観点を意識しながら見学すると、作業療法士の介入の流れやその背後にある意図を深く理解することができます。